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死の舞踏

第3章 隠家


そうして監視体制を続ける事数時間。……若干眠くなってきた。
優凪は仕事なのだからと出そうになる欠伸を噛み殺し、再び双眼鏡を覗き込んだ。

この公園は、猫達の餌場だ。織田作さん曰く、猫を捕まえる時はこういう近所の餌場を張るのが一番いいらしい。

「織田作さんって猫飼ってたんですか?」
「いや、1度もない」
「じゃあ今までの猫探しの依頼による経験で…という事でしょうか」
「ああ」

暇すぎるあまり、こうして織田作さんに質問を投げかけるが…
直ぐに会話終了してしまう。私の聞き方が悪いのだろうか。
引きこもりのコミュ力だもんな…。病院に入院していた事もあるけれど、個室だったし。
優凪はううむと唸った。

織田作さんは大した事はしてない、溝さらいの仕事だとか何とか言っていたが…凄いマフィアである。こんなに地域に密着する事もしていたんだ……ていうか眠い……

マフィアと聞くと私は殺したり脅したり等々が思い付くし、両親から聞くマフィアの姿もそうだった。だからてっきり織田作さんもそうなのかと思っていたのだれど…全然違ったみたい。

とはいえ、ずっと座っていると足が痺れてくる。双眼鏡から視線を外し立ち上がった。
それに気付いた織田作さんが声を掛ける。

「如何した」
「足がちょっと痺れまして」
「そうか」織田作さんが左肩に掛けていた鞄の中身を漁る。

出してきたのは掌サイズの牛乳パック。

張り込みをする前に「何だか刑事さんみたいなお仕事ですね!張り込みには餡パンと牛乳が必須ですね!」と会話を広げようと実家で見たドラマの知識を披露した。
結果、何故かコンビニで買われていたシロモノである。

「飲むか?」差し出された牛乳パック。パッケージに描かれた笑顔の牛のイラストが見てる。凄いこっち見てる。

「はい、ありがとうございます」私は鉄の笑顔で受け取った。こういう時に両親に植え付けられた『大人の前では笑顔』という暗黙のルールが私の中で活きているのを感じる。

優凪は受け取った牛乳の裏側、ストローを抜いて上面の銀紙に刺した。右手には餡パン。左手に牛乳。嗚呼、カオスである。

「あ、これ美味しい」
「そうか」ふ、と笑う気配がした。

心の声が漏れてたようだ。慌てて振り向くも、気配は既に消え去っていた。優凪は何となく損した気分になりながら、牛乳を啜った。
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