第3章 隠家
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マフィアというのは、元を辿ればイタリアのシチリア島を起源とする犯罪集団だ。その歴史は古く、19世紀頃から恐喝や暴力により勢力を拡大。この東の島国、日本においても黒社会の中でもより濃い黒として暗躍している。
日本に古くからあるヤクザと似てはいるが、そうした起こりや犯罪の内容も違う。組織のトップは首領(ドン)。首領の相談を受ける顧問役。その二人の下にアンダーボス。幹部、構成員…
とまあヤクザとは組織形態も歴史もまるで違うのだ。それでも共通しているのは、
暴力により、人を御す。ということだ
……と思っていた。数刻前までは。
そこまで以前読んだ本の内容を回想して、目を開く。
「…………。」
「………………。」
ヨコハマ市内の、周りをぐるりと住宅地に囲まれた公園。…の、更に奥の通路。
二人の男女が立っている。
一人は長身の赤髪の青年。壁に背を預けた姿勢で石像の如く動かない。時折公園の方に視線を投げ掛けていた。
もう1人はまだ幼い、小学生位の少女だ。片手に双眼鏡を手に持ち、地面にしゃがみこんで公園の方を覗き込んでいる。そしてもう片方の手には何故か餡パンが握られていた。
まだ平日の昼間。正直不審極まりない二人は否応にも歩行者の視線を集めていたが、当人達は気にする素振りも無くただ謎の監視(?)体制を続けていた。
その片割れーー優凪、即ち私は餡パンをひと口齧って呟いた。
「来ませんね、猫さん」
「そうだな」
短い返事の後、こっそり優凪はため息をついた。
自身の両親の死について何か知っている事は無いかと上に問い合わせた所、どうやら遺体は回収され、事件に付いては周知されているのだそう。
でも私については捜索命令も出されていないらしい。なんでだ。
そして今、ポートマフィア下級構成員の織田作さんの仕事に付き添っている。
百歩譲って、そこまでは私も分かるのだがーーー
そこからやっていたのが、マフィア傘下の店に描かれた落書きを消した事。落書きの犯人だと思しき少年達にお説教。これがなかなか手強くて、私みたいな年少に叱られると宜しくないらしい。逆ギレされた。織田作さんが仲裁して何とか丸く収まったのだけど…。
その後はマフィアのフロント企業の幹部愛人の猫が行方知れずの為、捜索依頼を受けて今に至る。