第3章 隠家
少女ーー優凪の服装は昨日とは異なっていた。
白いシャツにグレーのベスト、紺のショートPコートを重ね着している。コートの下からは膝丈位のプリーツスカート、その下から色白の華奢な脚が覗いている。
優凪はキョロキョロと辺りを見回し、料理をテーブルにセットした私に気付く。
「おはようございます、織田作さん」
「ああ、おはよう」
軽い挨拶の後、優凪はテーブル上の料理を見てもしかして、と呟いた。
「織田作さん、私の分も作って下さったんですか…?」
「ああ」
「ありがとうございます…!!」
ご飯を作っただけだが、優凪はまたあの眩い程の笑顔を向けてきた。
「大したものじゃないが…、」気恥しさから、私は付け加える。人にご飯を作った事も、お礼も言われたのも初めてだ。
「飲み物の希望はあるか。珈琲かお茶か、ホットミルク位だが」
「えっと…ホットミルクをお願いします」
「分かった」
手早くホットミルクを作り、優凪の前に置いた。
「じゃあ一緒にいただきます、しますか?」
…………。妙な間が空いた。私にはそうした習慣はなかったが、この年頃の少女なら家や学校で当たり前のようにするのだろう。
云わない方が善かったのか、と戸惑う優凪。遠慮がちに両手が祈るように胸の手前で合わせられていた。
美しい所作。
私は向かいに居るお手本に従って、自身の手を合わせた。
「「いただきます」」
ホッとしたような少女の声と、慣れない所為か辿々しい青年の声が響いた。
「ところで織田作さん」
食事も終わり近い所で、優凪が話しかけてきた。織田作はパンの最期の一口を飲み込む。
「私達、まだ自己紹介もしてないなと思いまして…」
あと昨日の襲撃についても、襲われる心当たりがあるんです。云うのが遅くなり、御免なさい。
そう続いた彼女の言葉に、確かにそうだ、と同意した。
「じゃあ私から失礼しますね。
改めまして橘優凪と申します。」
深々と一礼する。何処か貴族のご令嬢、と云っても差し支えない洗練されたものだ。
「小学校4年で、今年で10歳になります。両親は総合病院の院長と看護師長をしてました」
その病院の名は聞き覚えがあった。ポートマフィア御用達の病院である。真逆、そこのご令嬢だったとは。