第30章 〜緋色の欠陥、晒される過ち〜
「……本当に難儀な生き物だよね、人間ってさ」
「ですが、そう思っていても貴方方は寄り添うんでしょう?主人となった愛おしい者に、今代である麻衣さんに、彼女の御家とその子孫に……。そして彼女達への忠誠を尽くし、この日の本の歴史と人と文化を守ってくれるんでしょう?」
ぽつりと小さく呟かれた清光の声に、安室が穏やかな笑みを浮かべて応える。自分が愛するこの国を守る神、歴史と命を尊ぶ彼らの信念は安室にとって眩しいものなのだ。そんな尊き存在を束ねる審神者、彼らの始まりとされる一族である麻衣にも敬意しかない。深まる感謝と憧憬、自分も多くを護って行く為の更なる覚悟がついた
そんな綺麗すぎる気持ちを正面で垣間見た清光は、気まずそうに視線を逸らして「……あんた本当、生意気すぎ」と口を尖らせた
*
あのまま暗く落ち込んだまま、工藤邸に帰り着いた沖矢とコナン。二人は無言でリビングの椅子に座ると、沖矢が変声機であるチョーカーのスイッチに触れた。そして顔面蒼白で俯く小さな少年に対し、本当の声で努めて平静に話し始める
「坊や、後日FBIの仲間を集めて話をする。我々は元より選択を誤っていた、俺の偽装の件で君に罪はない」
「……っ、そんなわけないだろ!僕があの時、そうするように言ったんじゃないか!僕が……俺が、そうすれば良いって!!」
「ああ。しかしそれに賛同し、実行に移したのは俺達の方だ。遺体を故意に損壊させ、戸籍を偽造し、楠田陸道という人間を完全に消した。正義という大義名分の下に、母国の信頼と市民の平穏を乱した。以前からずっと日本の領域を穢してきた」
「だけど……だけど俺はっ、俺自身が罪を赦せないんだ!清光さんの言う通りだった、他にも方法があったはずだし、FBIの仲間を頼りもしなかった!申請の無い捜査も常識的に可笑しかったんだ、隠れて動くのを不便に感じながら、日本の警察を騙し続けた!!」
君の責任じゃない、そう言われた瞬間、ここまで我慢してきた気持ちが一気に爆発した。過去の自分に対する憤怒、今更ながら非道な罪を知った後悔、理想とかけ離れている落胆と悲しみ、償いきれない絶望感。もっと別の選択があった筈だった。事件を推理すること、組織への警戒、敵か味方か見定めること。その事ばかりに必死になって、盲目だったのだ