
第30章 〜緋色の欠陥、晒される過ち〜

ある男が来葉峠で頭を拳銃で撃たれ、その男の車ごと焼かれた事件があった。辛うじて残った焼け残った男の右手、そこから採取された指紋が生前、その男が手に取ったと言うある少年の携帯に付着していた指紋と一致し、死んだ男の身元が証明された
しかし証拠が妙だった。その携帯に残っていた指紋……その男はレフティで左利きなのに、なぜか携帯に付着していたのは右手の指紋だった。考えられる可能性は二つ、携帯を取った時に偶然聞き手が何かで塞がっていた。或いはとある理由で、右手で取らざるを得なかったか……
恐らくその携帯を男が取る前、別の男が拾っていたのかもしれない。その男がもしも、右利きだったとしたら……安室はそう考えていた
実際、3人の男に携帯を拾わせようとしてたみたいだと裏は取れていた。最初に拾わせようとしたのは脂性の太った男、次に首にギブスをつけた痩せた男、そして最後にペースメーカーを埋め込まれた老人だ。この3人の中で唯一、指紋が残っていたのは1人だけ……2番の痩せた男だった。なぜなら、最初に太った男が拾えば、付着した指紋は綺麗に拭き取られてしまう。脂まみれの携帯を後の2人に拾わせるのは遠慮したいだろう。そして3番目の老人、その人物では携帯の電波でペースメーカーが不具合を起こすことを危惧して拾いすらしなかった筈だ
しかし痩せた男の後に、問題の殺された男も携帯を手にしていた。その指紋をつかない工夫をし、自分が死ぬのを見越して指先にコーティングを行った
指先を透明な接着剤か何かを使えば可能である。そうしておけば、携帯に自身の指紋を付けずに済むということだ。携帯に付いていた指紋は、死亡したとされる人物のものではない。その前に手に取った、ギブスの男の指紋だったと安室は推測している
件の来葉峠の事件は、遺体が頭を撃たれ車体ごと焼かれていた。安室はそれによって死んだ人物が偽物じゃないかと疑っており、よくよく調査をすると別の人物の遺体の可能性が浮上したのだ。恐らく同じ服を着せた遺体を車に乗せていて、グルだった者に撃たれたふりをしてタイミングよく遺体とすり替わったのだと
そしてグルだった女の車にこっそり乗り込んで逃げたのだろう。監視役の男の目を盗み、隠れ様子を伺っていたと思われる。監視役の男はまんまと騙されたわけだ。何しろ撃たれた男は頭を撃たれ、血を吹いて倒れたのだから……
