第25章 〜毛利蘭の苦悩〜
それは決して解決にはならない。そしてその行いが正しさとして罷り通るとするなら、誰かに憎悪を抱いて復讐を遂げた犯人達はどうなるだろう。罪を抱えたままで命を落とす被害者達は仕方がないのか。そこまで考えが至り、顔を青褪めさせた蘭達に麻衣は諭していく
「……感情とは儘ならぬものです。欲を抱えるのも人間らしさです。誰しも自分の中の気持ちに耐えぬき、強く生きていけるとは限りません。堪えきれなくなった弱い者達が罪を犯してしまう。中には加害者達で何らかの被害を相手に受けた経験があるなら、その原因を作った被害者もまた加害者になりうる。だから刑法は裁判で容疑者達の思いを汲んで裁きます。国は秩序と安寧の為に憲法に基づき、警察や政府が国民に寄り添って職務を全うします。貴女方もそんな護られるべき国民の一員、そして自分が傷つく無茶をすれば悲しむ者達が大勢いるのを忘れていませんか?」
「「!!」」
三人が揃って麻衣に言われて初めて気づき、互いの顔を見合わせると同じ気持ちだった事を改めて思い知る
「貴女方の選択全てが間違いなどとは言いません。誰しも凡ゆる価値観を持つのは当然ですし、色んな見方や思考で物事を捉えていきます。そして時に誰かとぶつかりながら、多様な意見を分かち合ってその経験と自分では至らなかった別の考え方を知っていく。正に今の蘭さんのように、自身を見つめ直して己をより良く変える努力も。だから貴女の目指す未来の想像、それがどういうものか具体的に考えてみるのも良いでしょう。一口に『強さ』といっても、力や健康や精神面など分岐点はいっぱいありますし」
「(……嗚呼。そうだった私、いつも強くて頼られる自分でいたくて必死で、『何になりたい』っていう将来を考えきれていなかった。きっと無意識に迷ってしまったんだーーー)」
漸く蘭は自分の心の蟠りが少しずつ消えていくのを感じた。此処で麻衣に話した自分への不満は、園子達を頼りながら真摯に取り組んで改善していこう。両親の問題、工藤新一に対する不安と心配、これらについても今までとは違った事をしてみよう。蘭はそのように決心した。
「……っ、ありがとうございます。これからしっかり進路も決めて、アドバイスを参考にしながら頑張ってみます」
「はい。それからご両親と幼馴染、此方のお悩みもありましたねーーー」
