第25章 〜毛利蘭の苦悩〜
武術について麻衣から全員が指摘を受けると、蘭と園子と世良は互いの顔を見合わせて戸惑った。麻衣の言葉は的を射ぬいた正論だったが、これまでずっと警察の犯人逮捕に協力してきて「やりすぎだ」と呆れられても、空手を使う事自体を咎められた経験はない。何より、お手柄と褒めれて来た蘭や世良を誇りに思っている園子は、ほんの少し心外だった為に慌てて意見する
「だっ、だけど捜査協力なら正当防衛でしょ?武器を振り回したり、逃げようとしてたり、銃を持った凶悪犯を昏倒させて勝てたんだから!」
「正当防衛が成立する状況であっても、相手への対処次第では過剰と見做される場合があるのです。特に武術の有段者だと体が鍛えられて、手加減しても込めるべき最低限のパワーを出すので、受け身も防具も持たない素人には危険と見做されています。強引に意識を刈り取らずとも、武器を手刀で落とさせ、背負い投げでうつ伏せにしたら両手両足を拘束するだけで効率的に逮捕できて警察の捜査もスムーズにいきます。可能ならばそれが良いでしょう、逆恨みも過剰と言われるリスクも減ります。武力を用いた制圧は、反感と苦痛を齎していく。今まで大丈夫だったから、そんな不確定な保証は自分も他人も不幸になります。力があればある程、使う機会には考えて行動しなければいけません」
「……っ、君の言う通り、やりすぎだったとは思う。でもさ、やっぱり赦せないって気持ちもあるんじゃないか?」
今度は複雑な思いを募らす世良がその口を開き、彼女の言い分に蘭と園子もコクコク何度も頷いた
「……ええ、悪人を赦せない気持ちは当然の事だと思います。しかし悪を裁くのは、国の法律による裁判での話し合い。罪を認めさせ、更生出来る機会を与えて赦す為に刑罰を受けるのです。そして刑事事件の現場捜査や犯人の特定、逮捕の権利は警察のみが有します。誰かが傷つけられ、悪意に晒され、相手に憤りを感じるのは自然な事です。その感情まで悪いとは思いません。しかし相手の行いが赦せず、物理的な清算に出るのは本当に貴女方の考える正しさでしょうか?」
「「……っ!!」」
麻衣の核心を突いた問いに、蘭達が息を呑んでその意味を理解すると頭が真っ白になった。鈍器で殴られたような衝撃に眩暈がしそうだ。蘭達の思想は正義感から来ているが、それを行動に移すことは少しだけ違う
