第7章 近づく距離
テレビでコレクションがやっていて、ついつい見てしまうのはもう職業病みたいなもの
密着取材がいるのは毎年のことで、いつもはその密着取材されたものを見る側だったけど、今年は自分のメイクを最先端のファッションに身を包んだモデルさんが披露してくれている。
このために…
この瞬間を手に入れるためにあたしはやってきた
このランウェイの欠片になりたくてあたしはメイクをやってた
「あれ、黒須だろ?」
「‼‼…うん…」
自分の仕事を振り返っていて夢中になりすぎたせいで青峰君の声に飛び上がるほど驚いたのに、すぐに視線をテレビに戻すのは、あのコレクションに確かに自分が関わったんだって実感したかったから。
バックステージを撮ってた映像にはメイクのリタッチに入る様子や怒られてるところ、最後にBOSSとハグしてる様子までばっちり撮られてた。
「これでもぎりぎり合格点なのか?」
「だって怒られちゃったもん。もっと周りを見てれば指示されなくても動けたはずだから」
「初めてにしちゃよくできたんじゃねーの?BOSSだってすげーしっかりハグしてくれてんじゃん」
「そういえば、BOSSにはじめて褒められたかも」
結局最後まで見続けて、変な体制のまま夢中で見てたせいで腰と背中が疲れてしまって大きく伸びをした
「お疲れ」
優しく笑った青峰君が手を広げてくれたから、びっくりしたけど嬉しくて迷わずその腕に入り込んでハグをした
「ありがとう。すごく楽しかった」
ぎゅっと腕に力の入った青峰君のハグはすごく密着してぴったりと嵌る
ドキドキするのに…すごく安心する。
「ほんと細せぇ。力入れたら折れちまいそうだな」
「折っちゃやだ。もう離してくれなきゃこのまま寝ちゃうから」
青峰君が折らないなんて分かってるけど恥ずかしくて笑って誤魔化して
でも本当に眠いの
この腕の中はすごく心地よくて眠くなってしまう