第6章 take off
黄瀬君はマメ。
もちろん美緒限定だけど。
二人っきりじゃなくても仕事で女性と食事に行くことになれば行く前に必ず連絡を入れてる。
「ならよかった。あの、一応言っておくけどあたし黄瀬君は好きじゃないからね?」
「好きじゃないって」
「そう意味じゃなくて‼」
友達としては勿論好きだけど異性として好きって思ったことは一度もないし、美緒もそれは分かってくれてると思うけど、少しでもわだかまりは残したくない。
「分かってるって。みさきには青峰さんが似合ってる」
「はっ⁇急に何?!」
「何でもなーい!言っただけ」
びっくりした
やめてよね…
昨日の事があってただでさえドキドキしてるのに、名前なんて聞いたら心臓に悪い。
「もー!じゃあね!」
「またね‼」
美緒はいつも通りだった
いい気はしないはずなのに、あたしを責めたり怒ったりせず笑ってくれた。
黄瀬君の事を信じてるってことだと思うけど、あたしの事も信じてくれてるみたいだった
黄瀬君と美緒はお互いに信頼し合ってて、その信頼関係が羨ましい。
美緒と話せたことでスッキリして、家を出る用意をしていると電話が鳴り出した。
「もしもしー?」
「みさき、なにこれ?」
「どれ?」
さつきは笑ってて、主語もすっ飛ばしてるから何が言いたいのか全然分からない
「きーちゃんの…」
「あー……なんか誰かに撮られたみたい」
掲載されたのは2枚
1枚はあたしの横顔のドアップが黒塗りされたもの。
もう1枚はあたしが乗り込むところで、黄瀬くんは既に車内にいた。
先どうぞって言ってくれたけど、クライアントのマネージャーさんの車に先乗るのはさすがにマナー違反で、1度断ると黄瀬くんはすぐに先に乗り込んでくれた。
画像は粗いものだったけど、乗り込む私の荷物に黄瀬くんが手を貸してくれているのが分かる。
「みさきときーちゃんって絶対ないし、きーちゃんは相手が彼女なら自分が先乗るとかない」
「あ、言われてみればそうかも。黄瀬くん先乗るの見たことない」
「でしょ?これでみさきときーちゃんをそう見てるなら恋愛のセンスなさすぎだよ」
さつきも美緒も少しもあたしを疑ったり責めたりしない。
このふたりが友達でよかった。