第6章 take off
大我と青峰さんが帰国した翌日、黄瀬君の言ってた通り週刊誌が出た。
“黄瀬涼太、仕事後に最警戒でデート”
確かに最警戒でデートしたでしょうよ。
相手は当然美緒だけど。
堂々たる見出しに思わず何が書かれてるか知りたくて買ったけど…
この週刊誌曰く、あたしの猛アプローチの末の成就って事らしい。
けど、黄瀬君はあたしが猛アプローチしたところであたしのことは一切眼中にない。
黄瀬くんはあたしを女の人って枠に入れてない。
だって、昔黄瀬くんに名前で呼ばないように強く言った時、黄瀬くんがなんであたしを名前を呼んでたのか聞いたけど、ちょっとでも恋愛対象になる相手なら絶対ない理由だった。
聞いた瞬間は本当に失礼な人だと思ったけど、いつになく気まずそうに謝られて、もっと上手く、いくらでも嘘をつけたはずなのに、嘘をつかれなかった事で黄瀬くんに対する苦手意識は少し改善された。
改善されたと言っても、それが恋愛になるとか、男性として見るとかそういう事には繋がらない。
当時はあくまでもクライアントとしてどうかということだけだった。
今でこそ黄瀬くんは信頼できる友人の1人になったけれど、それでも黄瀬くんを男性として見たことは1度もない。
多分あたしと黄瀬くんは、お互いに恋愛対象じゃないってところが一致していて、お互いに相手もそうだってことを理解してるから二人で密室にいても恋愛的な空気は一瞬もなくて、それに違和感も感じない。
あたしと黄瀬くんは、多分、遺伝子レベルで恋愛にならない二人なんだと思う。
世界中にあたしと黄瀬くんだけが残されたら間違いなく人類は滅亡する。
てか、多分黄瀬くんは美緒以外無理だと思う。
恋愛素人だけど、あの二人を見てると相思相愛って言葉がピッタリはまる。
世界に美緒が存在することで黄瀬くんの遺伝子は継承されるだろうから、今はとりあえずその貴重で大事な存在に電話をかけることにする。
スマホを出してタップすると、3コール目でいつも通りの明るい声が聞こえた。
「もしもーし?今日休み?」
「ううん。仕事だけどまだ家にいる。変なの出てごめんね」
「全然気にしてないよー!涼太から送ってくって聞いてたし」