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【FF7 ヴィンセント BL】Halloween Night

第1章 夜の始まり


「僕は、リオといいます。…旅をしています」
「ヴィンセント・ヴァレンタインだ」
「ヴィンセント、さん…」
ヴィンセントは黒い正装をきっちりと着込んでいた。領主というだけあって、一目で仕立ての良い物だと判る。
男らしく整った容貌で、リオとは系統の異なる美形だ。睛はワインのような緋色だった。黒く艶やかな髪は肩に届く。
優雅にカップに口を付けながら、ヴィンセントはリオに旅先で見聞きしたものの話などをさせた。
「…それで、チョコボはその街に置いて来ました」
ヴィンセントは殆ど喋らなかったが、穏やかに頷いたり短い相槌を打ったりして、リオは次第に緊張が解れた。

暫くして、リオが窓へ目を遣った。
「…もう、夜ですね」
もうじき月が昇る。
「…食事の用意をするあいだ、風呂を使うといい。棚にバスローブもある」
「…でも、バスローブで食事なんて、」
幾ら何でも失礼なのではと思ったが、
「私は気にしない」
家主が何でもないという風に言って珍しく微笑んだので、甘えることにした。

熱い湯が疲労した躰に心地良く、リオはバスタブに首まで浸かって石鹸の香りを吸い込んだ。
「……はああ、気持ちいい…」
目蓋を閉じて湯の感触を愉しみながら、家主のことを考える。
「ヴィンセントさん、か……ヴィンセント・ヴァレンタイン………きれいな名前………」
深い緋色の睛を思い出す。
寡黙だが、物腰は紳士的で穏やかだ。
それなのに何故か、時折、リオを真っ直ぐに見る眼差しに、捕らわれそうな、落ち着かない気分になった。
耳先に微かな熱を感じる。尾骨の辺りが、ざわざわした。
「………やめてよね、今夜に限って…」
不意に訪れた感覚にリオは眉を顰めて呟くと、シャワーのコックを捻り、熱い湯を頭から浴びた。
曇り硝子の窓の向こうに、仄かな月明かりが差していた。

「ヴィンセントさん、」
涼やかな聲に振り向くと、バスローブを着た少年、リオが、幾分か恥ずかしそうに、控えめな笑顔で立っていた。
「お風呂、ありがとうございました」
「ああ…」
見れば、何度か折り返された袖と、同様に腰のベルトで調節されて尚、床擦れ擦れの着丈に、知らず口の端に笑みが上る。
「僕には大きくて…ちょっと、恥ずかしいです」
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