【FF7 ヴィンセント BL】Halloween Night
第1章 夜の始まり
「この村の、一番奥に大きなお屋敷があるから。大きなお屋敷だけど、領主様はお一人で住んでるんだよ。頼めば泊めてもらえるかもしれないよ」
「わかりました、行ってみます」
リオは軽く頷き、笑顔を見せた。
人形のように美しく整った貌が人懐っこさに緩んで、不意に女将はどぎまぎし出す。
「あ、あ、これ持ってお行きよ」
カウンターの後ろの棚から、菓子が沢山入った籠を掴んで、リオへと突き出した。
「…え、でも……」
「満室のお詫びだよ! 疲れてる時は甘いモノがいいんだよ!」
躊躇うリオに強引に籠を持たせ、ほらぐずぐずしてると暗くなるよ! と背中を押した。
「女将さん、ありがとう」
玄関で振り向いたリオの、少しはにかんだような笑顔に、女将は今度こそ心を鷲掴みにされたのだったーー。
* * *
確かに村の奥、町並みから外れて、その屋敷はひっそりと在った。
広い敷地は塀で囲われ、門から屋敷までの距離もある。
門には呼び鈴が見当たらなかったので、リオは躊躇いつつ、屋敷の玄関まで進んだ。
扉の脇に呼び鈴があったので押すと、中で「ビーーーッ」とブザーが鳴るのが聴こえた。
一歩下がり、ふと西の空を見ると、陽が山の向こうへ沈み切ったところだった。
月が昇るまでは、まだ数刻ある。
少し待つと、重い音を立てて扉が開いた。
扉の向こうに、想像していたよりもだいぶ若い男の姿があり、リオは"領主様はお一人で住んでる"と言った女将の言葉を反芻する。
「ーー領主様、」
男は僅かに頷くと、低い声を返した。
「何用だ」
「あの…、一晩、泊めて頂けませんか」
意を決して言うと、男は僅かに首を傾げ、黙ったままリオの全身に視線を走らせた。
リオは慌てて、土埃の付いたケープを外す。
白く細い首と華奢な鎖骨、歳の割に小さな肩が露わになった。
「村の宿が取れなくて…」
「ーーー入れ」
男は簡潔に言うと、リオを屋敷へ招き入れた。
金属の閂を掛ける音が、ホールに重く響いた。
「ありがとう、ございます……」
食堂に通され、勧められるまま椅子に掛けて待っていると、男が戻って来て、目の前のテーブルに湯気の立つティーカップを置いた。
林檎に似た甘い香りがふわりと立ち上る。
男はリオの正面の席にもカップを置き、自分も椅子に掛けた。