第1章 ~ATOBE KEIGO~
常設照明に照らされながら、何度も何度もサーブを打つ景吾の姿
(景吾…)
ずっと練習していたのか、反対側のコートには数え切れない程の球が転がっている
(皆が帰ってから大分時間が経っているのに…まさかずっと?)
大量の汗を拭いもせず、真剣にコートを見据える景吾の姿
普段からも思っていたが、テニスプレイヤーとしての彼はどこまでもストイックで
テニスをしている時の景吾は…
結構好きだ
普段の日常が現実離れしているというか飛び抜けている分、こういう姿を見ると、身近に感じる気がする
私は声を掛けることも忘れ、ただただジッと魅入っていると、
「…いつまで覗き見してんだよ」
その声にハッとすると、景吾がこちらを見ている
「ごめ…ジャマするつもりはなかったんだけど…」
「別にジャマじゃねぇが…まだ帰ってなかったのか?」
「うん。何かいつの間にか寝ちゃってた」
「何だそれ…」
くつくつ笑う景吾の近くに寄ると、私はコートを眺めた
「ずっとしてたの?」
「まぁな」
「へぇ…夢中なんだね」
「…夢中?」
「うん。あれ?私何かヘンなこと言った?」
景吾が眉をひそめる姿に首を傾ける
「いや…努力してるとはよく言われるが…何でそう思う」
「もちろん努力してきたことも含めてるけど…何か"努力"って言葉より、"夢中"って言葉のが合ってる気がして…だってテニスをしている景吾って皆と変わらないでしょ?」
その言葉に景吾は目を丸くする
「テニスに対する心は、何も変わらず夢中で…本当に好きなんだなって感じるから」
「っ………!?」
は穏やかに微笑むと、またコートに目を移した
真っ直ぐな瞳
色素の薄い髪と透けるような肌
形のいい唇
(コイツ…こんなに綺麗だったか…?元々整っているとは思っていたが…)
俺が欲しいと思っていた言葉を与えられたからなのか、の笑顔に見惚れてしまう
「そろそろ片付けないとね。手伝うよ」
俺の横をすり抜けたは、ご丁寧にも甘い香りを漂わせて
「っ………」
その辺の女なんて、霞むどころか消える勢いだ
頬が熱い
辺りが暗くなきゃ、誤魔化せそうにもねぇ
(っは…らしくねぇ…)
俺は自嘲気味に笑った