第16章 小さな手
「あなた……急がないと」
ミコトがリビングの置き時計を見て言った。「任務があるんでしょう?」
「ああ」
ミコトに赤子を渡して、支度をする時、イタチが階段を降りてきた。
「母上、すみません。 あとはオレが面倒を見ます」
フガクを通り越して、赤子に手を伸ばした。じろりとフガクは長い髪を一つにくくるイタチの背中を見た。うちは一族のマークが大きく描かれる。
「イタチ、明日の会合に来い。分かっているな?お前は一族と里を繋ぐパイプ役だ」
なにも今言わなくても……。イタチは暗く目を伏せた。あたたかい体温の花奏を横向きに抱いた。
「明日は任務がある。会合には出れない」
イタチは赤子を抱いたあと、
振り返り、フガクの目を見つめた。
「なんの任務だ?」
「言えない……極秘任務だ」
階段を下る足音が止まる。これからアカデミーに勉学に励むサスケだ。こんな話を聞かせたくない。反吐が出る。
「サスケ……、早く学校に行けよ? 遅れるぞ」
イタチはそう言って花奏を抱えてリビングのドアを開けた。フガクは、途端に表情を険しくさせた。
「イタチ、大事な会合だ。 必ず参加しなさい」
ミコトは黙っていた。口を出さない。気持ちは夫であるフガクと同じだ。
「…………」
イタチは返事をしなかった。廊下で鞄を持つサスケとすれ違う。花奏は網目のボール遊びに夢中だ。
「頑張って勉強してこいよ」
とイタチは、
出来るだけ明るい声で言った。
「あ……うん、行ってきます……」
怯えるサスケは足早に家を出た。弟をダシに使い、父上との話を切り上げた。心で「すまない」と謝っていた。