第16章 小さな手
「……いや、同名だが関係ない。身寄りがなくて困っている子だ」
イタチは真実を伏せた。自分の母であろうとも喋るつもりはない。何年も面倒を見るのではない。ほんの短い間だけ。
「そう……花奏ちゃん、これからよろしくね?」
それ以上深く聞かなかった。ミコトは赤子を抱き、そのままリビングへと歩いた。
部屋に入ると、ちゃぶ台の前に、厳格なフガクが座布団に座り、新聞を読んでいる。任務に行く前で朝ごはんの食パンを食べていた。
「……あぅ、あ、」
ガサガサ音がする新聞を掴もうと、小さな手を伸ばす花奏。ミコトはそんな仕草に笑った。
「ほら、ダメよ」
フガクは新聞を畳み、床に置くとミコトに顔を向けた。
「おい、母さん、鍋が沸騰しているぞ、良いのか?」
「あ、大変! すみません、お願いします!」
ゆで卵を作ってる最中だった。ミコトは座るフガクに、赤子を渡して台所へと駆けた。
「お、おい…………」
ミコトは、「あちち……」と流し口に鍋のお湯を流す。水道の蛇口をひねり流水に浸した。ゆで卵の殻を器用にむいていく。
イタチは自分の部屋に赤子の荷物を置きに、階段を登り、サスケもアカデミーに行く準備をする為に自室へ戻る。
「…………」
いきなり赤子を渡されたフガクは戸惑う。抱かれた花奏は、自分の口に拳を舐めて、フガクを見た。
口の周りはヨダレだらけ。手もべちゃべちゃだ。ちゃぶ台の上にあったティッシュを2、3枚取り、フガクは口や手を拭いてあげた。
「……あうー……」
「あ、母さん、あれはどこだ?」
と言いかけて、フガクが部屋を見渡したとき、棚に置かれたボールを見つけた。
サスケが小さい頃に使っていた網目の青と赤と緑の色がついたボール。握りやすくて赤子のボール遊びにはうってつけだ。
「ほら……」と渡された花奏は、網目をつかんだ。
「あぅあー……」
一応洗って消毒したが、ベロベロ舐めている。口に、はむはむと無い歯ぐきでボールを噛んだ。フガクは嬉しそうにその様子を眺めた。