第16章 小さな手
イタチは去った2人を見送り、花奏に目線を送る。
「では、……行こうか?」
目が大きく茶髪の赤子を抱き、大きな鞄を持つイタチが「うちはの街」を歩けば、自然と視線が集まる。
「どこの子だ?」
「部外者を入れるとは……」
いぶかしげな話し声が耳に届いた。イタチは花奏の耳を塞いであげたい気持ちになる。こんな汚い声に耳を傾けてはいけない。イタチは暗い表情で歩を進めた。
「兄さん!」
近づく飛び跳ねる足音。澱む空気を切るような、少年の活気ある声にイタチは振り返った。
「!……、ああ、サスケか」
朗らかなサスケは、そのままイタチに抱きつこうとした。兄の腕には赤子が抱かれている。飛びつきたい気持ちを、サスケはぐっと抑えた。
「兄さん……今日も任務ないんだね、珍しいね! お帰り。 どうして、この子の面倒をみるの? 困ってるから?」
サスケは赤子を覗き込んだ。小さな手はぎゅっと握る。イタチが持つ大きな荷物をサスケは預かり、それを肩にかけ、イタチの歩調を合わせた。
赤ん坊を抱いているせいか、
いつもよりゆっくりと歩いていた。
昨晩、イタチは、サスケや両親に赤子の面倒をみることを唐突に伝えた。
「迷惑は一切かけない。オレが責任を持つ」
断言したイタチを、サスケは不思議に眺めた。なぜ、この赤ん坊に固執するのか、いまだ理解できていない。
自分の兄が、赤の他人の面倒をみたいと、両親に頼む姿が、サスケには異様に思えた。初めての光景だったからだ。
イタチは、抱きながらそっと赤子の頬を触った。滑るようなつるつるな赤い頬。いつまでも触れていたい。
「オレの……大切なひとだ。助けてあげたいと思うのは、当然だと思わないか?」
「大切なひとって、これ、赤ちゃんじゃん。 変な兄さん!」
サスケはおかしくて笑った。イタチは優しい表情で花奏を見ていた。触れる箇所が温かい。
ときおり、イタチやサスケに視線を向けたり、口をうごかしたりしているが、大人しく抱かれていた。
「そうだな。 サスケの言う通りだ。オレも己がおかしいと思っている」
イタチは困ったように、柔らかな表情で口もとをゆるめた。