第1章 第七商社の鶴見
「や、弥作…」
俺が若干心細さを感じていると、ポンと肩に手を置かれた。
「君が江渡貝くぅんの言っていたゆうはくんだな?私は鶴見と言う者だ」
名刺を差し出され、思わず受け取ってしまった。鶴見ナントカ課長。下の名前はインクが滲んていて読めない。とはいえ本当に第七商社の人間なんだ…着てるスーツも高そうだ。
「俺、高橋 悠と言います。『ゆうは』は弥作にしかしてほしくない呼び方なんで、やめてください」
「これは失礼、高橋くん。こちらは部下の月島と前山だ」
「………」
「こんにちは〜」
「…どうも」
月島は無言で会釈して、前山は軽く頭を下げた。俺も一応軽く頭を下げて挨拶する。
「……弥作のこと、会社に引き抜こうとしてるって聞きました。あいつまだ高校一年生ですよ?どう考えても…」
「私としては、どう考えても、彼の才能を埋もれさせるわけにはいかない。彼は素晴らしい芸術家だ。美しいものを生み出したら、今度は世界にそれを見せるべきだ」
「第七商社ってそういう会社でしたっけ?それとも会社に引き抜きは嘘で、本当は個人的にあいつを囲って置きたい、とかですか?」
俺が半ば確信を持って尋ねると、鶴見はふっと口元に笑みを浮かべた。何か次の言葉を発する前に、弥作が家からバタバタと駆け出て来る。
「鶴見さぁん!持ってきました、鶴見さんの万年筆!」
「おお、ありがとう」
万年筆を受け取った鶴見が弥作の頭を撫でる。弥作はすごく、すごく嬉しそうにそれを受けていた。
…なんだよその顔。こんなに一緒に居たのに俺、見たことないぞ。
無性に腹が立った。
「しかしな、江渡貝くん、私は万年筆以外のものも忘れてきてしまったようなのだ。今から少しお邪魔しても構わんかな?」
「そうなんですか?気づかなかった…。ええ、構いませんよ!どうぞ入ってください!」
「お、おい弥作!」
また置いていかれそうになったので慌てて引き止める。