第12章 【秀吉・後編】※R18
「来いよ、三下!」
賊たちを挑発するように短く叫ぶと、秀吉は自ら二人に向かって斬りかかっていった。
一人の剣を払いのけ、返す刀で二人目を薙ぎ払う。間合いを取ろうと後ずさった相手に向かって、地面の砂を蹴り、目つぶしを駆けると同時に斬りかかる。
まるで後ろに目がついているかのように、背後から斬りかかってきた刀を脇差で受け、そのまま相手の脇腹を突く。
息をも持つかせぬ秀吉の刀捌きに、竜昌は我を忘れて見入っていた。
そのとき、ふと秀吉の目が竜昌を捉えた。
「後ろ!」
「!!」
いつの間にか竜昌の背後に敵の魔の手が伸びていた。肩を掴まれた竜昌が、その手をふりほどこうともがくと、市女笠だけがずるりともぎ取られた。
黒装束の隙間から覗く眼が、竜昌の姿をを捕らえる。
「お、お前は…!」
ドカッ!!という音と共に、突然 黒装束の男は背後に弾き飛ばされ、もんどりうって崖から落ちていった。
春雷が、主の危機に、後脚で男を崖下に蹴り飛ばしたのだ。
「やるな、春雷」
秀吉は春雷に向けてニヤリと笑った。春雷も鼻を鳴らしてそれに応える。かつては気難し屋の暴れ馬で、竜昌にしか懐かなかった春雷が、秀吉と心を通わせているように見えるのが不思議だった。
そして秀吉は片腕を伸ばし、市女笠を失った竜昌を敵の目から隠すように、ギュッとその胸に抱きよせた。
「…守るって言ったろ」
秀吉の胸に顔を埋めた竜昌は、そのぬくもりと煙管の匂いに包まれ、くらりと眩暈がした。
「おいお前たち、全部殺すなよ。『少しは』生かしておけ」
少し離れた所から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「遅えぞ、光秀」
「それはすまなかったな、小舅殿」
火縄銃を肩にかついだ光秀が、飄々とした笑顔で歩いてくるのが見えた。
辺りをよく見ると、いつの間にか光秀配下の忍が戦闘に加わり、形勢は逆転していた。黒装束はすでに何人かが縛り上げられていた。
「思ったより大したことなかったな」
「ああ、所詮 金で雇われた下忍だろう」
その男たちを一瞥しながら、光秀が言った。