第5章 青色ドロップ
そよぐ春風に髪の毛が遊ばれ、そっと片手で抑えれば幸村の視線がじっと自分に向いている事に気がついた。
目を細め、緩く口元を上げている幸村の頬はほんのり上気していて、思わずつられて頬を上気させれば、軽い靴音を鳴らしながら店員が二人の元までやってきた。
薄化粧を施したきりっとした美女である店員に、名前は思わず見惚れてしまった。
「いらっしゃいませ、メニューでございます。お決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」
「ありがとうございます」
「では、失礼します」
綺麗な流れるような動きで一礼をしてから、女性店員は去っていった。
彼女が置いていった手のひらサイズの小さなベルが、テーブルの中央で幸村と名前を眺めている。そのベルのデザインが、あまりにも可愛くて名前は手を伸ばしてみた。
持ち手のところが木の根のようになっており、音を鳴らす箇所である金属部分は薔薇がいくつか描かれている。どうやら黄色い薔薇のようだ。
片手でそれを持って、もう片方の手でそれを指の腹で撫でながらそれを眺めていると、ふと幸村が口を開いた。
「それ、気に入ったのかい?」
頬杖をつき、名前の手の内にあるベルを眺めている幸村。注がれる視線になんだか緊張して、手元が震えそうになるがなんとか平常心を保ち、口を開いた。
「うん。可愛いデザインだなって」
「確かにちょっと変わっているね。持ち手が木の根になってる」
言いながら名前の手に自分の手を添えて、緩い動作で自分の方へと導きながらベルへと視線を注ぐ相手に、名前は緊張から目を回してしまいそうになる。
自然と頬が熱くなり逃げるように手を引っ込めつつ、メニュー見ようか、と僅かに声を上擦らせ言葉を紡いだ。
くすくすと楽しげな幸村の笑い声が聞こえ、少しだけ悔しくなったが名前には対抗する術を持っていないため黙ってベルをテーブルの中央へと置くとメニューを手に取った。
幸村にも見えやすいように開いたばかりのそれを横にすれば、あぁ、美味しそうな紅茶がたくさんあるね、と嬉しそうに声を弾ませた。
幸村は紅茶が好きらしい。そう言えば、以前本を読みながら紅茶を飲む時間が好きだと言っていたのを名前はふと思い出した。