第36章 束の間の日常
ぎゅっ、と目をつぶって、転倒の衝撃に備えようとした時、
「副長!ラウラ!」
複数の男性兵士の声がして、ダダッと駆け寄ってくる足音が耳に響いた。
ずっしりとのしかかっていた体重がふわりと軽くなったかと思ったら、私の背中にも誰かの腕が回されていた。
「大丈夫か?」
はっとして上を見上げると、そこには心配そうに眉を下げた髭ゴーグルさんの顔があった。私の身体を支えてくれたのは彼だった。そして、副長の身体の方はケイジさんが抱き抱えていたのだった。
「副長、相当お疲れだったんだろう…」
ケイジさんは、ぐったりとしている副長の腕を首に回すと、しっかりと身体を抱え直した。だがその時、
「はっ」
副長が意識を取り戻したのだった。
「私は…」
一瞬呆然とした様子の副長だったが、ご自身や周囲にいる私達の体勢を見ると、すぐに状況を理解されたようだった。
「すまないラウラ!怪我はなかったか!?」
オロオロと心配そうな表情を浮かべる副長に、私は思わず笑ってしまった。たった今、意識を失って倒れそうになったのは副長の方だというのに、すぐに他人の事を心配することができるなんて、副長はなんて優しい人なんだろう。
本当に尊敬するけれど、ちょっと危なっかしくもあり、だからこそ部下として精一杯支えになりたいと心から思う。