第35章 覚悟
その言葉に、私は長年の間ほとんど無意識に思っていた考えが間違っていたことに、唐突に気づいて愕然とした。
(私は今まで、絵を描くためなら死んだって構わないと思っていた。私が死んだとしても、誰かが私の思いを引き継いで行ってくれるから、と。そう思って「誰か」に自分の思いを託していた。
でも…私もその「誰か」になり得る存在だということ、いや、もうすでにそういう存在になっていたということに気がついていなかった。死んでいった兵士達は、私が漠然とそう思っていたのと同じように、生き残った兵士が自分の思いを引き継いで行ってくれると思っていたに違いないんだ。
死んだって構わないと思うことは、彼らの遺志をないがしろにする無責任な考えだ。託された思いを引き継いでいく責任が、生き残った私にはあるんだ。…それを私は分かっていなかった)
呆然としている私を、兵長はじっと静かに見つめていた。兵長は何も言わなかったけれど、私の中で何かが変わったことを感じ取っていらっしゃる様子だった。