第35章 覚悟
重く硬い空気を変えるように、ふいに兵長は表情を緩めた。
「ところで、さっきエルヴィンと少し話をした。任務中、奴をよく支えてくれたらしいな」
向けられた表情は柔らかい。それが、ふっと口角を少し上げて笑った。
「正直、お前みたいに危なっかしい奴はすぐに死んじまうと思っていた。実際、絵に夢中になりすぎて巨人にかじられそうになったことも一度や二度じゃねぇだろ。
だが、確かにお前は自制できるようになってきたらしい。まだまだガキだと思っていたが、いつの間にか一人前の兵士になっていた。よくやったな、ラウラ」
まっすぐに見つめられ何の臆面もなく言われた褒め言葉に、泣き疲れて少しぼんやりしていた私は、一瞬の間の後、何だか胸の奥がムズムズするような、だけどそんなに微細でもない衝動が湧き上がってきて、それが頬の筋肉を激しく持ち上げさせた。頬が熱くなるほど恥ずかしい。だけど、それと同時にとても嬉しい。
(そうだ。私は生き残った)
今までは、絵を描くためだったら死んでもいいと思っていた。でも兵長に言われて、生き残った者の責任を自覚した。私は簡単に死んではいけない。
ヘルゲ…ミア…、リヴァイ班のみんな、ナナバさん、ゲルガーさん、ミケ分隊長…今回の一連の作戦で亡くなった全ての兵士達に誓います。みんなの思いをつないでいくことを。