第35章 覚悟
カップを持つ手がカタカタと震えて、中に入っている紅茶がこぼれそうだった。
「私が絵を描いてきた事に、意味なんて無かったのかな…」
「違う」
間髪入れずに言われた言葉に、はっとして兵長の顔を見ると、三白眼気味だが実は青みがかっているその瞳が私を見つめていた。
ゆっくりと手が伸びてきて、ゴシと頬を拭われた。濡れた頬の感覚にその時初めて気がついて、自分が泣いていたことを知る。ポロ、ポロ、と次第と涙の落ちる間隔が短くなっていき、私は肩を震わせて泣き始めた。
兵長はずっと私の涙を拭い続けてくれていた。次から次へと溢れてくるそれを、兵長は指ですくっては頬を撫ぜてくれた。触れる手の温かさのおかげで、崩れそうになっていた私の心は次第と落ち着いていったのだった。
しばらくの間何も言わなかった兵長だったが、私が落ち着いてきたと判断した頃になると、ゆっくりと話し始めた。
「今まで、お前の絵は俺達に多くのことを教えてくれた。お前がいなければ、巨人研究はもっと遅れていただろう。その事を忘れるな。自分の有用性をきちんと自覚しろ。
そしてこれからも描き続けて欲しい。その先にどんな結果が待っていようとも、それを見届けるのが生き残った俺達の責任だと、俺はそう思う」