第35章 覚悟
そのうちの一つが、兵長が先ほど言われたコニーの母親の件だ。
あの巨人がコニーの母親であると結論づけた時、憤り、涙を流す彼の横で私と分隊長はただ立ち尽くすことしかできなかった。それは、話す言葉が見つからないほどの衝撃を受けていたからだ。
私達は…人類を巨人の驚異から救いたいという一心で、巨人研究に打ち込んできた。巨人の正体を解き明かすことにつながると信じていたからこそ、どんなに残酷な実験であっても実行することができたのだ。
だけど…コニーの母親のように、他の巨人の中にも人間が入っていたのだとしたら?槍で刺したビーンにも、杭で地面にきつく固定したソニーの中にも、人間が入っていたとしたら…?
そう考えた時、ぞっ、と背筋が凍って、思わず私は呟いた。
「私達は、今まで一体何と戦ってきたの…?」
父を噛みちぎった巨人や、ヘルゲやミアを押しつぶした女型の巨人、崩壊した家の中に仰向けに転がってコニーを見つめている巨人…それらの巨人達の姿がありありと頭に浮かんで、紅茶のカップを持つ手が小刻みに震え始めた。
人類のためを思いながら、その実、行ってきたのが人間を傷つける行為だったとしたら、私たちは何てことをしてきたのだろう…。
ふと、今際の際の兄さんの顔が頭に浮かんだ。
(兄さん…、兄さんが「私の絵は人の役に立つ」と言ってくれたからこそ、私は巨人の絵を描いてきた。巨人研究に少しでも貢献できれば、それがいつか巨人を絶滅させることに繋がると思ったから…。
でも父さんや、私の仲間達を殺したのも人間だったのだとしたら…私は何のために巨人の絵を描いてきたんだろう)