第35章 覚悟
私はお礼を言って、兵長を部屋の中へと招き入れた。と言っても、兵長にとっては勝手知ったるアトリエであるため、案内せずともいつも腰掛けていらっしゃる窓際まで歩いて行かれて、ティーテーブルにトレーを置いたのだった。
私は、床にとっちらかったスケッチブックやら絵の具のチューブやらを片付けながら(絵に夢中になりすぎて気づいたら部屋がひどい状態になっていた)、内心飛び上がるほど動揺していた。
実は、扉を開けた時から心臓がドッドッとうるさく鼓動し始めて、ちょっと息苦しいくらいなのだ。
だって扉を開けたら思いがけず兵長がいたものだから、びっくりして息が止まりそうになった。いや、実際のところ一瞬止まったかもしれない。まだ恥ずかしくて、兵長の顔をまともに見られそうにない。
とは言え、ずっと顔を背けている訳にもいかないので、私は腕に抱えていたスケッチブックを置くと兵長の方を振り返った。
すると兵長は、ポットから紅茶を注ぎ始めていた。
「あっ、私がやります」
思わず手を伸ばしたら、カップを持つ兵長の手に指先が触れてしまって、その瞬間ビクッと身体が跳ねてしまった。
伸ばした手も止まってしまう。どうしよう、こんな大げさな反応ばかりしていては兵長に失礼だ…でも、どうしてもこうなってしまう。兵長のことが好きすぎて、顔も見られないだなんて…。