第35章 覚悟
私もまた、自分のアトリエにこもって絵の制作に取りかかっていた。
私の絵は報告書の資料として添付されるので、ハンジ分隊長から様々なオーダーが出されている。それらの注文に完璧に応えるため、私はこの調査期間中に描いた膨大な量のスケッチをひっくり返しながら絵を描いていた。
こういう状況の時にこんな事を思うのは不謹慎なのだが、こういう風にして調査報告を絵にまとめている時はどんな時よりも楽しくて、気分が高揚する。いや、やりがいを感じていると言った方が正しいかもしれない。
次から次へと描きたいことが浮かんできて、筆を動かすのですらもどかしいと感じるほどの創作意欲に全身を包まれて、この上なく心地よい。
過酷な調査のせいで身体は疲れているけれど、描きたい気持ちの方が大きいから辛くはない。
しばらくの間、私は時間を忘れて絵に没頭していた。だが、深夜を回る頃には絵にも一区切りついたので、少し手を休ませるためパレットに筆を置いた。
そんな時だった。コンコンと扉が控えめにノックされて、「俺だ」とリヴァイ兵長の声がした。
「兵長!?」
私は慌てて扉まで走って行き、勢いよく扉を開けた。そこにはポットやティーカップを乗せたトレーを持った兵長が立っていて、私の顔を見ると少しだけ口角を上げた。
「…調査ご苦労だったな。茶を持ってきたが、飲むか?」
そう言って兵長は、持っていたトレーを少し差し出してみせたのだった。