第35章 覚悟
…私の知っている兵長は、もっと鋭い雰囲気の人だったはずだ。少なくとも、こんな風に微笑んだりすることはなかった。
兵長に撫でられて嬉しい、嬉しいんだけど…ちょっとムズムズする…。
頭を撫でていた手が、いつの間にかまた頬に添えられていた。優しく細められた目で正面から見つめられドキンと胸が跳ねる。
(キスされるのかも)
と思って、思わず私は目をギュッとつぶる。自分でも分かるくらい身体が震えていた。
そんな風にしてプルプルと震えていた私だったが、いつまで経っても兵長が動く気配は無くて、恐る恐る目を開こうとした時、ふいに頬をムニュッと軽くつままれたのだった。
びっくりして目を見開くと、兵長の顔が目の前にあって、私はさらにびっくりした。
「オイオイ…ビビりすぎだ。心配するな、今日はもう何もしねぇよ」
兵長はそのまま、むいむいと私の頬を引っ張り続け、どことなく面白がっているようだった。
ひとしきり私の頬をいじくりまわして満足したのか、兵長はベッドから立ち上がった。
「俺はそろそろ仕事に戻る。お前は早く寝て、明日の任務に備えろ」
ポン、と私の頭に軽く手を乗せた後、兵長は部屋から出て行った。