第35章 覚悟
静かに扉が閉められるのを見届けた後、私は少しの間兵長の残していった余韻の中でぼんやりとしたのだった。
痛くはないのだが…頬をいじられすぎてジンジンする。兵長がこんな風に戯れることがあるなんて…思ってもみなかった。
だけど、あぁ、思えば兵長は意外と茶目っ気のある人だった。兵長にちょっかいをかけられる人間が極端に少ないから見る機会が無いだけで、案外兵長もこういう一面があるということなんだな。
先ほどまで兵長が腰掛けていたベッドの端に手を伸ばす。そっと手を置くと、まだそこはじんわりと温かくて、先ほどまで頬に触れていた兵長の手を思い出させた。
せっかく兵長が来てくれたというのに、私はほとんど意味のある言葉をしゃべっていない。言ったのはせいぜい「はい」くらいのものだ。
我ながら呆れるけれど、でも言い訳をさせてもらえるのなら…兵長があまりにも優しく触れるものだから、頭がフワフワしてしまって…それで何も言えなくなってしまったのだ。