第35章 覚悟
振り返るとベッドの端に腰掛けた兵長と目が合って、兵長は目を細めて微笑んだ。
「やっとこちらを向いたな」
少しだけカサついた兵長の手が伸びてきて、スリと頬を撫ぜられた。
目の前のある兵長の顔はまるで春の陽だまりのように柔らかで、今までに一度も見せたことのない表情を浮かべていた。それを見て私の心臓は一際大きく跳ねる。
(こんな兵長…私は知らない)
昨日の夜から、一体兵長はどうしてしまったのだろう。昨日の夜も今朝も、色々と起こったのが寝起きの時だったから、今ひとつ現実感が無くて、頭のどこかで「ひょっとして全部夢だったんじゃないか」という思いがぬぐえないでいた。
でも、先ほどハンジ分隊長から嫌というほど兵長が私のことを好きだという話を聞かされて…そして今目の前にいる兵長の様子から考えても、どうやら私の妄想ではないことが分かった。
「明日の調査に参加するのか」
兵長が言う。
「すっかり顔色は良くなったが、あまり無理はするな。それに、俺は一緒に行けないから、巨人に遭遇しても絵に夢中になりすぎるんじゃねぇぞ」
「は、はい…」
私がこっくりと頷くと、兵長はまたちょっと微笑んで、「いい子だ」とわしゃわしゃと私の頭を撫で回した。