第35章 覚悟
分隊長と副長が出て行ってしまうと、先ほどまでの賑やかさがウソだったかのように部屋は静かになった。
シーンと物音一つしない室内で、私はハタと気がつく。
(…兵長と二人きりになっちゃった…!)
途端に、ドッドッドッと心臓が大きく鼓動し始めた。すぐ後ろに兵長の気配を感じるけれど、恥ずかしくて顔を向けることができない。 どうしよう…
「……」
「……」
私も兵長も何も話さないまま、沈黙が続く。
私はまるで石膏像にでもなったかのように、ベッドの上で同じ姿勢を取り続けた。おかしいな…二人きりになる事なんて アトリエではいつもの事だったし、こんなに緊張なんてしなかったのに。
今まで二人でいる時に何を話していたんだっけ。いや…思えば一緒にいてもあまり言葉を交わすことは無かったような気がする。
私はいつも絵にばかり夢中になっていたし、兵長は静かに絵を見たり本を読んだりされていたから。あんなに時間を共有していたのに、きっと私達は先ほど分隊長がしゃべった量の半分も話していないと思う。