第34章 おかえり
ギシとベッドが軋む音を立てる。頭と身体がまるで違う動きをしていて、いつの間にか俺はラウラの顔の横に手をつくと、覆いかぶさるようにしてその寝顔を見下ろしていた。
壁に戻ってきた時の、泣きながら抱きついてきた姿を思い返す。今までだって何度もこいつの身体を担ぎ上げてきた。だがラウラの方から抱きつかれたことなんて始めてのことだった。背中に回された細い腕の感触をまだ鮮明に覚えている。
(…こいつの絵の邪魔をしたくないから、この気持ちは一生言わないでおこうと思っていたが…)
そんな綺麗事を言うのはもうやめだ。そうして何も行動しないまま、こいつを失ったとしたら、俺は一生後悔するだろう。だから俺は後悔しない方を選ぶぞ。俺は今、こいつを手に入れる。
俺の中で、ずっと塞き止めていた想いのタガがまさに決壊しようとしていた。
徐々に近づいていく唇。だがもう少しで触れるかという時に、ラウラの長いまつ毛が僅かに震えるのが見えてラウラが目を覚ました。
うっすらと開いたまぶたの間から、コバルトブルーの瞳がキラリと覗く。あぁ、宝石のように綺麗だ。その瞳の中に、俺が写っているのが見える。
それを見下ろしながら、俺は囁くようにして言った。
「起きたか、ラウラ」
腹をくくってしまったからか、俺は自分でも不思議なくらい落ち着いている。