第34章 おかえり
夜になって、俺は自室には戻らずにラウラの眠る医務室へと向かった。
ラウラのベッド脇に椅子を引っ張ってきて腰掛ける。スースーと眠るあどけない寝顔を見つめていると、布団の端から小さな手が飛び出していることに気がついた。布団の中に戻してやろうと思ってそっと手を取ったが、その温もりに触れたら離し難くなってしまって、結局その手を離すことができずに俺はラウラの眠るベッドに腰を移したのだった。
指を絡めてラウラの手をぎゅっと握り締める。
(細ぇ指だ…。この小さな手で、よく今まで戦地をくぐり抜けて来たもんだ…)
じっと見下ろす先にはあどけない寝顔があり、その肌は陶器のように白く滑らかだった。頬には女型との戦闘時に負った傷があって、俺が貼ってやったガーゼは跡形もなく剥がれてしまっている。だが傷はすっかり塞がったようなので、この分なら痕も残らないだろうと思ってほっとした。
俺はなおもまじまじとラウラの寝顔を見つめる。少しだけ開いた唇からは寝息がかすかに漏れ出ていて、スースーと音を立てている。桜色の小さな唇。…それを見ていたら、次第と俺の胸は昂ぶってきてしまった。
(触れたい)
唐突に頭に浮かんだ欲望に、ギクリと身体が強張る。いや待て、何を考えている。こいつは怪我人…じゃあねぇな。幸いにしてラウラはかすり傷程度しか負っていない。
だが過酷な任務で、気を失うほど疲弊していることには間違いない。そんな状態のこいつに何かするなんて…。