第34章 おかえり
ハンジ達とはそこで別れ、俺達は再び進み始めた。
暗闇の中を、松明の灯りだけで歩を進めていく。エルヴィンのこと、エレンのこと…その他にも気がかりは山ほどあったが、ラウラの事ばかりが頭に浮かんできてしまう。エルミハ区で送り出した時の、触れた頬の温かさを思い出す。
ラウラは、普段の様子と絵を描いている時とではまるで別人のように変わってしまう。普段は冷静なくせに、絵の事となると我を忘れて壁外だろうがどこだろうがお構いなしにスケッチブックを開き始めてしまう。
そんな状態になった時には声をかけようが抱き上げようが気付きやしないから、手が掛かるなんて生易しいもんじゃねぇ。壁外であいつの面倒を見るのはいつだって命がけだ。
だけど巨人の絵を描いている時のあいつの狂気じみた瞳に、俺は誰よりも魅せられてしまったのだ。恐ろしいと思うと同時に美しいと思った。俺はあの狂人の支えになりたいと、心の底から願った。
そう思ってからもう2年が経つ。俺の気持ちは今でも変わらないし、あいつが絵を描く姿を隣で見ていられる現状にも満足している。
だが時々ふと思う。あいつは俺の事をどう思っているのだろうか、と。
あいつはハンジ班の所属だが、エレンの関係で俺の班にも半分所属しているようなものだから、俺の直属の部下でもある。部下としてよく俺を慕ってくれていると思うが、一人の男としては?
…きっとあいつはそんな事考えたこともねぇんだろうな。あいつの幼馴染の話を聞いた時にも思ったが、あいつは筋金入りの鈍感だ。自分に向けられている好意には気づきもしない。
だが、それでいい。あいつは絵のことだけを考えてくれれば十分だ。夢中で絵を描くあいつの横顔を見ていられれば俺は…。
そんな事を考えながら、俺は馬で駆け続けたのだった。