第33章 道標
ミカサはゆっくりと立ち上がると、いつも身につけている赤いマフラーを首に巻き始めた。その黒い瞳には、涙が浮かんでいる。
私は…彼らにかけてあげられる言葉が見つからなかった。ミカサの絶望がひしひしと伝わってくる。彼女がどれだけエレンの事を大切に思っているかなんて、普段の様子を見ていれば十分すぎるほど分かることだ。彼女はきっと、自分と同じくらい…いや自分以上にエレンのことを大切に思っているのだろう。
立ち尽くしていた私の横を、すっ、とハンネスさんが横切っていった。
「なぁお前ら、腹減っただろ?」
ハンネスさんは、私やコニー、クリスタに水を持ってきてくれた時のように、ミカサとアルミンに野戦糧食を手渡した。ついでに私にも渡された包みを見て、ハンネスさんはどれだけ優しい人なのだろうと思った。
バリッバリッと盛大な音を立ててハンネスさんが食べ始める。だけどミカサは静かに涙を流し続け、アルミンも深くうなだれているだけだった。
それでもハンネスさんは、急かすようなことは一切しなかった。代わりにいつもの口調で言ったのだった。
「まぁいつものことじゃねぇか」
と。