第33章 道標
組んだ自分の足を見下ろしながら、ラウラの顔を思い浮かべた。
ラウラは、相変わらず絵に没頭している時は回りが全く見えていない。さっき「随分制御できるようになってきたと感じます」なんぞと抜かしていたが、俺から言わせればまだまだ危なっかしいことに変わりはない。
でもまぁ確かに、絵を描いている時に声をかけて、返事をすることは増えたかもしれない。入団したばかりの頃なんか、それこそいつもギラギラした目をして絵を描いていやがって、ちょっと声をかけたくらいじゃ絶対に気付くことはなかったからな。少しは変わってきたのだろう。
だが、先ほどアニ・レオンハートを地下に運んだ時は、新兵の頃に戻ったような目をして、じいっとアニ・レオンハートの姿だけを見つめ、その他の一切の事には気がつかないほど没頭していた。
頬が切れていることを指摘したが聞こえてもいない。おそらく女型との戦闘の中で負った傷だろうが、白い頬に血が固まっていて、その鮮やかなコントラストが余計に痛々しそうに見えた。
仕方がねぇから手当てをしてやったが、それすらも気づいていなかった。一体あいつの集中力はどうなっていやがるんだとさすがに思った。まぁ、もともと知っちゃいたから、今更驚きはしねぇが…呆れはするな。
だが俺は、あいつのああいう常軌を逸したところが気に入っている。脇目も振らずに一心不乱に絵を描いているあいつの横顔は、とても美しいと思う。