第33章 道標
〇
ラウラ達をエルミハ区で見送った後、残った俺達はひとまずエルヴィンからの指示を待つことにした。ウォール・ローゼが破られたかもしれない今、奴は壁の奪還作戦に向けて色々と画策しているのだろう…。
俺はあいつの判断を信じている。命じられれば、それに全力で従うまでだ。
とりあえず、この場の指揮権は俺に託されている。今朝から行われていた女型捕獲作戦でどの兵士もヘトヘトに疲れきっているから、まずは身体を休めなければならない。
それに、ウォール・ローゼが破られたかもしれないという事態を受けて、精神的にも不安定になっているだろう。こういう時に無理して動いても良い結果は出せない。
俺は兵達に、見張り兵を交代で立てながら休憩するよう指示をした。
俺達は今エルミハ区に臨時で設営した作戦本部にいる。もちろんベッドなんかは無いが、野営用の寝具があるし、皆鍛えられた兵士達だ。それぞれが自分に合った身体の休め方を学んでいる。そんなことは訓練兵時代に学ぶもんだ。
俺は調査兵団に入団した経緯が特殊なせいで訓練兵を経験したことはないが、地下街の劣悪な環境の中でそれを学んできた。なにせあの環境ではぐっすりと眠っちまったら、次に起きた時はもう天国か地獄のどっちかに行っちまうかもしれないから、おちおち眠ってもいられなかった。物心ついたときからそんな環境にいたせいで、俺はあまり眠らないしベッドで横になることもない。その辺の椅子に腰掛けて、数時間じっとしているくらいで事足りる。
だがニック司祭はそうはいかない。俺達のように鍛えられた兵士でもないから、体力が無いのだ。あちこち引っ張りまわされてすっかり疲れちまったみたいだったから、今は横になって休んでいる。まぁ、俺が隣に座っているこの状況下で眠れているかどうかは知らんが。