第33章 道標
熱風が弱まってきて、何とか壁の下を覗き込めるようになってきた。それでもまだ熱い風が吹き上げてくる。
ハンネスさんが腕で風を避けながら下を見て、大声を上げた。
「エレンッ!!」
私も慌てて下を覗き込むと、鎧の巨人がエレン巨人のうなじを齧り取るところだった。思わず叫んだが、この状況下ではどうする事もできない。
そうしている内に、超大型巨人のうなじからユミルを抱いたベルトルトが姿を現して、鎧の巨人に立体機動装置で飛び移ると、彼らは走り去っていってしまった。
彼が着けていた立体機動装置…あれはさっき食った兵士のものだろう。何てことだ…立体機動装置を奪うためにあの兵士を食ったというのか。
もうもうと立ち上る蒸気…。向こうを見ると、二班の兵士達も私達同様に呆然と鎧の巨人の後ろ姿を見つめている。
…どうしたらいい。エレンが連れ去られてしまう。鎧の巨人の姿が、もうあんなに遠くに…追いかけなければ、エレンを取り返せなくなる。
だけどどうやって追いかければいい?馬も無いし、立体機動で追いかけられるような地形でもない。
壁の下にいた兵士達は、今の攻撃を受けてきっと負傷しただろう。自力で動ける兵士がどれくらいいることだろう。
まずは負傷した兵達を…、ハンジ分隊長を救助しなければ…。あぁ、だけど…エレン!エレン…!!
私の頭の中を様々な思いが駆け巡り頭がいっぱいになって、私はどう動いたらいいのか分からなくなり、身体が動かなくなってしまった。
だけどその時、グイと肩を掴まれた感触ではっとした。
「ラウラ!まずは下の奴らの救出だ」
「で…でも、エレンが…」
私は子どものようにうろたえた。そんな私に喝を入れるようにしてハンネスさんが言う。
「今は仲間の救出が最優先だ!!」
その大きな声に、私はビクッと身体が跳ねた。だけど、それでやっと我にかえった。
「は、はいっ!!」
私は大声で返事をして頷いたのだった。