第32章 裏切り者達
「お前さぁ…疲れてんだよ」
エレンがライナーの肩に手を置く。
「大体なぁ~お前が人類を殺しまくった『鎧の巨人』なら、何でそんな相談をオレにしなくちゃなんねぇんだ。そんなこと言われてオレが『はい行きます』って頷くわけがねぇだろ」
エレンは困惑しながらも、至極落ち着いて返事をした。普段の、すぐに感情的になる彼からしたら、とても良い対応の仕方だったと思う。
だけど…エレンの返事を聞いたライナーの表情がみるみる内に変わっていくのを、私は見逃さなかった。まるで、晴れ渡った晴天の空から、夏の夕立のように真っ暗になっていくかの様だった。
何かをブツブツと小声で言っているが、ここからではよく聞こえない。ただ、彼の顔は真っ青で、小刻みに震えているようだった。
シュル、とライナーは腕を吊っていた布を外すと、素早い手つきで、だがとても丁寧に折り畳んだ。その小さく畳んだ布をズボンのポケットにしまって顔を上げた時には、もう別人のような目付きになっていた。先ほどまでの怯えた様子は微塵も感じられない。
包帯をとかれ、あらわになった腕には大きな歯型がついていて…その傷からはまるで巨人のように蒸気が立ち上っていた。