第32章 裏切り者達
だが数歩もいかないところで、エレンを呼び止める声が聞こえた。
「エレン、話があるんだが」
少し低めの精悍な声。…これはおそらくライナーだ。
「…?何だよ」
エレンが振り返る気配を、背中で感じる。
「俺達は5年前…壁を破壊して人類への攻撃を始めた。俺が鎧の巨人で、こいつが超大型巨人ってやつだ」
唐突に、まるで雑談でもしているかのような気軽さでライナーは言った。
それを聞いた瞬間、私の心臓はドクッドクッと大きく脈打ち始めた。ハンジ分隊長が言っていた推論…ライナーとベルトルトがアニの共謀者である可能性…二人もエレンと同じように巨人になれる人間であるという推測など…様々なことが頭の中を駆け巡った。
反射的に勢いよく振り向いてしまいそうだったけれど、今、私が二人に警戒されるような行動をしてしまうのはマズイ。
ゆっくりと、極力自然な感じで振り返ると、私の少し後ろを歩いていたミカサも、エレンの方を振り返るところだった。
彼女は吸い込まれそうな真っ黒の瞳で、瞬きもせずにエレン達を見つめていた。