第32章 裏切り者達
「穴がどこにも無い」
壁をよじ登ってきたハンネスさんが言うと、彼に手を貸し引っ張り上げていたエレンが目を見開いて、ハンネスさんに食ってかかっていった。
「ちゃんと見たのか!?まだ酒が残ってんじゃねぇのか!?」
突然の乱暴な口調に私はびっくりしてしまった。私の知るエレンは、時々思いきった事を言うものの基本的には礼儀正しい子のはずだ。
ハンネスさんは気さくな人だけど、駐屯兵団工兵部の隊長を務めている人だ。エレンのような新兵がこんな口の利き方をして良い訳がない。
「飲むかよ。っていうか…お前らは何でこんな所にいるんだ?」
だけどハンネスさんから返ってきた言葉は、思いがけず普通のものだった。その受け答えを見ると、どうやら彼らは知り合いであると思われた。
エレンが上官への不敬罪にならずに済んで、私はホッとする。通常だったら、すぐさま言葉遣いについて叱責されるところだ。
ハンネスさんからの報告が一通り終わったところで、私はそっとエレンに声をかけてみた。ミカサとアルミンも一緒にいる。
「エレンはハンネスさんと知り合いなの?」
エレンはコクリと頷く。
「はい、ガキの頃からお世話になっていました。ハンネスさんはシガンシナ区で壁の警備についていたので」