第32章 裏切り者達
分隊長は話を続ける。エレンにも硬化の能力を発揮してもらえれば、それでウォール・マリアの壁を塞ぐことができるかもしれないと言うのだ。
それは大胆で突拍子もない計画のようにも思えたけれど、実現が可能だと思わせるだけの材料は揃っている。その可能性を最大限に活かした上での作戦だと思う…やっぱりハンジ分隊長は天才だ。
だけど、驚くべきことはもう一つある。アルミンが、分隊長と全く同じ考えに至っていたことだ。先ほどの女型の皮膚片の時にも感じたが、彼の頭の良さは尋常ではない。エルヴィン団長やハンジ分隊長にも匹敵するのではないだろうか…? 調査兵団はとんでもない新兵を獲得したのかもしれない。
その後も二人は、作戦実行についてあれこれと話している。二人の頭の回転が早すぎるので、周りの人間はやや置いて行かれがちではあるけれど、話を聞いていると何とも言えない頼もしさを感じるのだった。
ひとしきり計画を説明し終えたところで、ハンジ分隊長がエレンに向けて言った。
「…こんなこと聞かれても困ると思うんだけど…それってできそう?」
ハンジ分隊長の言葉に、シンと皆が口を閉じてエレンを見つめた。私も思わずチラリとエレンの顔を振り返る。
「あ…」
皆に、期待と不安の詰まった視線を向けられて、エレンは青い顔をして言葉を失っていた。
…それも当然か。そうだ…よく考えてみれば、エレンは巨人化に成功したのだって今日で数回目だと言うのに、使ったこともない…使えるのかどうかも分からない不確定な能力を全面的に頼りにした作戦を言われたって困ってしまうだろう…。
でも…現状、それ以外の妙案が無いというのも事実だ。