第32章 裏切り者達
「…エレン、今はとにかく身体を休める事が先決だよ。そうだ、何か食べ物を持ってきてあげる」
エレンの気を少しでもそらそうと思って、私は腰を上げた。
エレンの気持ちはよく分かる。「あの時ああしていれば」なんて、私だっていつも思うから。でももう「あの時」には決して戻れないし、今ある現実を受け入れて、これから先をどうしていくか考えるしかないんだ。…例えそれがどんなに辛くても。
でもそんな正論を今の疲弊しきったエレンにぶつけるのは可哀想だから、私は何も言わない。きっと彼だって、そんなことはよく分かっているはずだから。
私が部屋を出ようとドアに手をかけた時、ほとんど同時に外側から勢いよく扉が開かれた。
「た、大変だっ!!ウォール・ローゼが…突破されたかもしれない!!」
部屋に飛び込んできたアルミンが、真っ青な顔をしてそう叫んだのだった。
地上に駆け上がるとすでに仲間達は慌ただしく動き回っていて、私はすぐさまハンジ分隊長のもとに走った。きっとすぐに、巨人討伐のため兵士が送り出されるだろうから、準備に取り掛からなくては。
先ほどアルミンに聞いた話では、ウォール・ローゼ南方にある施設で待機中に、壁内で巨人の姿を確認したと言うのだ。そこにはエレン達以外の104期生全員が隔離されていて、ミケ分隊長やナナバさん達が監視役に付いていたはずだ。