第32章 裏切り者達
今すぐにでもエレンの頭を撫で回したそうな顔をしているミカサとのやり取りを強制的に終了させて、エレンが尋ねた。その問いには、私が答える。
「変わらず…だよ。結晶体の中で眠ったように動かない。さっき地下牢に運んできたから、これからは24時間体勢で見張りがつくだろうね」
「そうですか…」
エレンは背中を丸めて、下を向いた。頭に巻かれている包帯が痛々しいが、よく見れば、顔や手などに負った小さな切り傷は治りかけてきていた。
そう言えば以前、審議所で兵長に蹴られて抜けた歯もすぐに再生していた。この異常な回復力は巨人の力によるものなのだろう。こうやって能力を目の当たりにすると、やはりエレンは巨人になれる人間なのだと改めて思ったりする。
「あいつ…うなじを剥がした時…、何故か泣いてたんですよ。感情を表に出すような奴じゃないのに。アニがあんな顔をして泣くのなんて初めて見ました…。だから俺、一瞬手が止まっちまって…でもあの一瞬が無ければアニを巨人の身体から引き剥がせたかもしれないのに…。俺が手を止めたから…っ」
「エレン、もう横になって」
少しずつ興奮してきた様子のエレンに、ミカサが心配そうに背中に手を当てている。確かにもう横になった方が良さそうだ。心なしかエレンの身体はグラグラと揺れていて、きっと身体を起こしているだけでも今は辛いのだろう。