第32章 裏切り者達
立ちのぼる蒸気で、辺りは真っ白に染まる。
蒸気が晴れてきて視界がやっと開けた時には、アニ・レオンハートのその身体はすでに水晶のような透明の物質で厚く覆われた後だった。
水晶体に触れてみるとひんやりと冷たかった。この物体は一体何だろう。うなじや手足を硬質化させていたものと同じなのだろうか?
「クソッ!!何だこれはっ?!」
ケイジさんが怒鳴りながら、その水晶体を剣で突く。だが、砕けていくのは剣の方ばかりで、水晶体には傷一つ付かないのだった。
ハンジ分隊長の指示で水晶体をワイヤーで縛りながら、私はまじまじと彼女の顔を見つめた。
先ほどまで悲しそうに歪んでいたその表情は、今はまるで眠っているかのように静かだ。
アルミン達から聞きながら描いた似顔絵と、実際の姿はほぼ一致しているように思えた。やはりミカサの言った通り、女型巨人とアニ・レオンハートの顔は似ていた。
「オイ!?ア、アレ…」
アニの観察に気をとられていた私だったが、隣にいた兵士の大きな声に、顔を上げた。
見ると何人もの兵士が、ある一点を指差している。皆が指差す先に私も目を向けてみて、絶句した。
壁にはミカサがまだワイヤーで取り付いており、そのすぐ横の剥がれた壁の隙間から…巨大な顔が覗いていた。