第32章 裏切り者達
エレンからの攻撃が止まると、女型はすぐさまその場を離れ一心不乱に壁に向かって走り始めた。
もともと女型の巨人の目的はエレンを攫うことのようだったが、この状況下ではさすがに諦めた様子で、逃走に全神経を集中させているようだった。
私達も一斉に立体機動で後を追う。
壁に到達した女型は、指先を硬質化させて壁をよじ登り始めた。まったく、何てことだろう…巨人が壁をよじ登るところなんて初めて見た。巨人にあんなことが出来るなんて…思いもしなかった。
ビシ、ビシ、と壁に指を突き立てながら登ってゆく速度は驚く程早く、立体機動でも追いつくことができない。
「くっ…!」
私には何もできないのか。捕獲するどころか、まだ一太刀だって浴びせていないのに。このままでは逃げられてしまう…と歯をギリギリと噛み締めた時、またもや背後を飛んでいったものがあった。
「えっ…ミカサ?!」
飛んでいったものに目を凝らしてみれば、それは確かにミカサだった。ミカサの飛んできた方角を振り返ると、そこにはエレン巨人とアルミンの姿があった。
「行っけええぇ!!ミカサ!!」
アルミンが叫ぶ。その様子とエレンの体勢から何となく想像がついた私は、戦闘中だったけれど思わず笑ってしまった。
「まるで人間大砲だ」
アルミンは本当に、とっさにすごい方法を思いつくものだと感心した。