第32章 裏切り者達
半ば無理やりになってしまったが、私は救護室に兵長を連れて行く事に成功した。
本来なら私ごときが兵長をどうこう出来るはずなどなかったのだが、それが出来てしまったということは、兵長の傷はかなり酷いということなのだろう。抵抗する気力もないのだから。
処置台に座ってもらった兵長のブーツをゆっくりと脱がしていくと、本来なら引っかからないようなところでブーツがつかえてしまい、それ以上脱げなくなった。
「…っ」
兵長が眉を寄せる。
おかしい…と思ってブーツの上からそっと足を触ってみると、明らかに形がおかしかった。
「?!兵長、ちょっと失礼します」
私は細心の注意を払いながらも、ぐっとブーツを引き抜いた。
「な…」
あらわになった足首を見て私はぎょっとした。まるでボールでも詰めたみたいに膨れ上がっていたからだ。
「ど、どうしたんですかこれっ!一体いつ…?!」
「騒ぐな。女型との戦闘中に、少しな。大したことねぇ」
「大したことなくないですよっ!待っていてください、手の空いた医師をつれて来ますから!!」
「おい…」
兵長が何か言おうとしていたけれど、私は構わず処置室を飛び出した。
撤退行動中に合流してきた兵長に怪我は無いかと尋ねた時、兵長は「大丈夫だ」と答えた。だから私はてっきり怪我は無いものと思ってしまったけれど、きっとあの時からすごく痛かったに違いない。だってあの腫れ方は尋常じゃない。
今思えば兵長が隊列に合流してきたとき、あまり顔色が良くないようには感じた。なのにそれを、気のせいだと見過ごしてしまった。
あれはきっと足の痛みのせいだったのだろう…。それに気づけないなんて、私は部下失格だ。