第32章 裏切り者達
「足、どうされたんですか?!」
至近距離でよく顔を見てみれば、いつもよりも顔色が悪い。兵長は普段からあまり顔色は良くない方だけど、こんなに青白くはない。
まじまじと顔を見つめていると、兵長はプイと顔を背けてしまった。怪我を隠していたことでバツが悪いのだろうか。だが今はそんなことを言っている場合じゃない。
「とにかくこちらへ」
「いや、俺は後でいい」
「ダメですっ!」
兵長があまりにも頑ななので、私は兵長の身体に回した腕に力を込めて、ぎゅうと抱きしめた。
「救護室に行って下さるまで絶対離しません!」
「オイオイオイオイ…」
珍しく兵長はゴニョゴニョと口を動かしていた。
それでもまだ歩き出してくれないので、私はさらに強く兵長を抱きしめる。すると兵長は、降参だという風に両手を上げた。
「まいった。救護室に行くから、もう離せ」
「ホントですか?逃げませんか?」
「そんなしょうもねぇ事しねぇよ」
「それなら…」
私は兵長の身体に回した腕の力を弱めた。
「おい…離してくれるんじゃねぇのか?」
「一人で歩くのはお辛いんじゃないですか?救護室まで支えます」
「…離せと言っても離さねぇんだろ?」
「はい」
「仕方ねぇな」
兵長は今度こそ本当に観念したような顔をしたのだった。