第31章 幸せ
考え込んでいる私を見て、兵長はまた前を向く。
「あいつらの絵、家族はすごく嬉しかっただろうよ。…あれは、お前にしかできないことだ。お前のおかげで遺族たちは救われた、と思う」
「兵長…」
褒められた…のだろうか。怒り以外の感情をストレートに表現することの滅多にない兵長が、こんな風に言ってくれるなんて。
「そんな…私はそんなに大層な思いを持って描いた訳じゃありません…。でも、私の絵で少しでもご家族の心を慰めることができたのなら嬉しいです」
そう言って私は少しだけ笑った。でも、兵長に褒められて嬉しいけれど、仲間を失った悲しさとか、遺族の泣き顔を見て感じた罪悪感とかがごちゃまぜになって、表情がうまく作れない。笑っているのに涙が出てくる。眉が下がっているのか、上がっているのか、しゃべっているのか、唇が震えているだけなのか分からない。
いつの間にか、歩く足も止まってしまっていた。俯いた視線の先には、夕日を受けて長く伸びた影があって、その先には数歩前を歩く兵長の足が見えた…。
ポタポタと地面に水滴が落ちていき、土に染み込んでいく。慌てて涙を拭おうとした時、ドンッと身体に軽い衝撃を感じた。視界いっぱいに兵団ジャケットの色が広がって、それ以外は何も見えなくなった。
あっ、と思う間も無く私は兵長の両腕で抱きすくめられていたのだ。