第31章 幸せ
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ペトラとは産まれた年も同じで家も近かったから、小さな頃からいつも一緒に遊んでいた。
あいつは可愛らしい見た目に反して、結構気が強くて、男相手でも平気でつっかかっていくようなところがあった。その上運動神経も良いもんだから、大抵の男は手も足も出なくていつもコテンパンにのされてた。
地面に転がる悪ガキどもを見下ろして、豪快に笑うあいつの事が好きだった。
その想いは成長するにつれてどんどん強くなっていったけれど、なかなか想いを伝えることは出来なくて、ましてやペトラが気づいてくれるはずもなかった。
あいつは、人の事はよく見ていて細かいところによく気がつくくせに、自分の事になると途端に鈍くなるもんだから、困ったものだった。
とは言え俺なりに頑張ってアピールはした。時にはあからさま過ぎるか?と自分で心配になるほどだったけど、相変わらずペトラは気づかないのだった。
だからいつの間にか掛け合いみたいなやり取りになっちまって、「俺の女房を気取るには、まだ必要な手順をこなしてないぜ」なんてバカみたいなセリフを言っちまうようになるんだ。手順なんか、とっくの昔にこなし終えてるってのに。いい加減気づいてくれよ。
そうこうしている間に、あいつに好きな相手ができた。
一体どこのどいつだ、ぶちのめしてやるって、最初は思った。長年想っていた相手を一瞬にして奪われたんだから当然だ。
だけどその相手がリヴァイ兵長だって気付いた時、俺はどうしたらいいのか分からなかった。だって…兵長は俺にとっても憧れの人だったから。
俺とペトラは、訓練兵時代に兵団の合同訓練に参加したことがあって、そこで初めてリヴァイ兵長の事を知った。風のように立体起動で飛ぶ姿に、まるでガキみてぇに目を輝かせて憧れた。
…そうか思えばあの時に、俺たちは同時に兵長の事が好きになったのかもしれないな…。