第31章 幸せ
女型の巨人との戦闘が始まってから数分もしないうちに、エルドが死んだ。
私達の戦闘に間違いは無かったはずだし、現に女型巨人を圧倒していた。それなのに…私達よりも巨人の力の方が一枚上手だったということなのか。片眼だけを集中して治す事ができるなんて…。
地面に転がるエルドの上半身を見て、私は全身の血が凍りついたように冷たくなっていくのを感じた。
「ペトラッ、早く体勢を立て直せっ!!」
オルオの声が上から聞こえる。分かってる、こんなに低い位置を飛んでいたら危険だってことくらい。
分かっているのに、立体起動のトリガーに指をかけたまま、私は背後から追いかけてくる巨人から目をそらすことが出来なかった。
ぐあっと迫ってくる大きな足の裏を見つめながら、やけに周りの動きがゆっくりと流れていくように感じた。意識もしていないのに、過去の様々な情景が脳裏をよぎる。あぁ、そうか。これが走馬灯というものなのか…。
初めての壁外遠征で粗相をして先輩にからかわれた事、合同訓練で初めて兵長の姿を見て胸をときめかせた事、訓練兵時代にオルオと大ゲンカした事、特別作戦班に選出されて泣くほど嬉しかった事。
そして兵長が…ラウラに惹かれていくのを、横で見つめていた事。私の方がずっと先に、兵長のことを好きになったのにと思いながら…。
でもずっと彼の事を目で追ってきたからこそ分かる。私が兵長を好きなのと同じくらい、兵長はラウラの事が好きなんですね。
だから私は…この気持ちが見つからないように隠して、そっと横から背中を押すから…ラウラ、どうか兵長を幸せにしてあげてね。
大きな影におおわれて行きながら、私の意識は暗くなっていく。さようならリヴァイ兵長、私の全てを捧げた人…。